◎押し釦のB接点はリレーのB接点とは違うという不思議な問題
この問題は、自分で回路を組んで、実際にぶつかった人だけが明快に理解できる問題と言えます。
実際の回路を目の前にしないと、なかなかスッキリとは理解が困難な問題です。
ですから、まだこの問題にぶつかっていない人は、こんな問題が提示されていたということだけを記憶しておいて、問題を感じてからここに戻ってくればそれで充分です。
以下の回路は簡単な自己保持の回路です。実際のリレーと電線で組む回路では、この通り配線すれば必ず、X00のオンで自己保持し、X01のプッシュで(X01がオフし)、自己保持が解除します。
図1
ところが同じB接点を使用し、同じ自己保持回路をシーケンサで回路を設計して動作させようとすれば以下のように書かなくては動作しません。
図2
何故でしょうか?
図1の回路をラダーニーモニックで表記すると以下のようになります。
LD X0
OR Y1
ANI X1
OUT Y1
この3行目の
ANI X1
は、X1が0ならそれ以前の論理(1/0)を引継ぎ、X1が1なら以前の論理に係わらず0となり、次のY1をオフするという命令です。
(シーケンサの入力は原則的に負論理で、0V(GND)で1になります)。
従って、もし図4のようにB接点がメークの状態であれば、入力のX1は0V(GND)ですから、X1=1となります。
するとこの上記ラダーニーモニックで表記される図1の回路ではX1が0V=1で、ANI X1のため、それ以前にいくらX0を押しても、Y1はオフのままになってしまいます。
もう一度言いますと、図4ではX1はオンなのです。
図3 図4
そこで図2のように回路を組めば
LD X0
OR Y1
AND X1
OUT Y1
となり、図4の状態でX1はオンなのでANDで以前の論理をひきつぐことになり、X0をオンすれば、Y1はオンとなり自己保持します。
さらに図4の状態から、押釦のX1を押せば、接点が離れて(プルアップ抵抗によりX1は5Vになり)、入力のX01はオフ=0になります。
つまり、図4のB接点を、図3のA接点の単なる天地逆さまのものと考え、いつもくっ付いている(ノーマルクローズ)のA接点と考えて使用するわけです。
リレーのB接点はコイルを基準に考え、コイルがメークなら接点は逆のオフと考えるので、それが’ANI’の論理になるのですが、図4の接点は実際にくっ付いているので、くっ付いているからオフという論理は成り立たず、図3のA接点がくっ付いている状態とおなじ論理になるはずです。
この混乱は、A接点、B接点という実際の押し釦とリレーで回路で組んでいた時の呼称を、そのまま使用して、押し釦のB接点とリレーB接点と同じ論理で(シーケンサ側で)考えることから起った混乱で、既存の市販シーケンサではこの問題を避けることができません(つまり図2のように押釦のB接点回路を組まざるを得ない)。
もう一度言いますが、押し釦のB接点とA接点の違いは、前者がノーマル・オンで後者がノーマル・オフであることの違いしかなく、押し釦のB接点とは、いつも押されているA接点と物理的になんの違いもないのです。違いといえば、可動部分とそれと接触する固定部分の上下(天地)が入れ替わっているにすぎません。
B接点という呼称から、単純に論理をひっくり返すことは間違いなのです。
○ベテランのシーケンス屋さん達
フェールセーフの問題で、外部B接点を使用しなくてはならない場合が多いのですが、この問題をベテランのシーケンス屋さん達はどうやって解決しているのでしょうか。
A技術者「入力、出力の正負の扱いは、設計を開始する前に、整理するのは常識だから問題ない」
B技術者「補助リレーを一つ使用して、そのB接点と直列にすれば問題は解決する」(下図)。
C技術者「図2のように設計するのは仕方がない」
等々ですが、シーケンス回路に経験の浅い筆者自身、ユーザに指摘されて愕然としたのと、特に初心者にはこの問題の指摘は重要と考え、ここにあらためて指摘することにしました。
それと同時にこのことは、マイコンは0と1の問題の集合だから簡単だといいますが、いかに0と1の問題というのが難しい思考を伴なうかを示す好例だと思います。筆者はこの問題にぶつかり、「連枝」でどう対処すべきか考える度に頭を抱え、疲労を覚えるほど頭脳を使います。
関連事項
・ 岩井君のシーケンス教室-Ⅰ
・ 岩井君のシーケンス教室-Ⅱ